2023年3月14日-16日に日本生理学会第100回記念大会に参加させていただきました。私自身も現在取り組んでいるシングルセル解析の分野について発表をさせていただきました。
今回は第100回記念大会ということで生理学の研究手法に関する歴史に関する展示がありました。膜電位測定に関してはガラス微小管から始まりパッチクランプ法や単一細胞トランスクリプトーム解析へと技術が発展してきた様子が、神経機能の研究手法については神経細胞の活動記録や回路の解析から現在ヒト脳機能研究において用いられている fMRI や TMS に至った様子が展示されていました。基礎医学で扱った現象の裏にある研究や実験技術が発展してきた様子を見て、学問が広範な学問領域を巻き込み、浸透しながら広がりを持って螺旋的に進んで行くものであることを改めて感じさせられました。また、Caスパイクを発見された萩原生長先生や心臓の刺激伝導系を発見した田原淳先生など日本の生理学研究の黎明を支えた方々に関する展示を見て、ひとつひとつの事象の解明は先人達の研究の積み重ねであることも感じさせられました。
講演では、生理学と関係する様々なお話を聞くことができました。印象に残ったのは rTMS、 tDCS による神経可塑性誘導に関するものです。ひとつひとつの神経現象に関する研究が応用され、これまで不可能とされてきた神経の再生誘導や機能回復が見込まれるところまで来たこと、基礎研究の積み重ねがリハビリという臨床領域において成果を出していることに感銘を受けました。自分自身の研究分野と近いものにおいては、深層学習を用いて疾患シグナルネットワークを解析するものや、遺伝子の発現ダイナミクスとオルガノイド研究を融合させ再生医療に応用するものなど多彩なアイデアのお話を伺うことができました。今後は視野を広げることで解決すべき問題を見つけ、柔軟な発想で取り組んでいきたいと感じました。データ駆動型で問題を解決するためには、統計数理についてももっと勉強する必要がありそうです。また、最終的には実際の現象を確認することの重要性も改めて感じました。基礎医学の講義でお世話になった中村先生が熱産生反応に関わる神経回路について中枢のシステムを構成する役者や遠心性メカニズムなど、生命現象の根幹ではあるが教科書にはまだ書いていないようなホメオスタシスに関するネットワークのお話をされていたのも記憶に残りました。
自分自身の発表では他分野の先生からご質問やご指摘をいただく中で、今後の自分の研究の方向性や伝え方、見せ方について考えるきっかけとなりました。今回の発表に向けて準備をする中で自分の研究分野への理解が深まったと感じていたものの、数理モデルやデータの解釈について異分野の方に研究内容や成果を伝える方法についてはまだまだ成長が必要だと感じました。
高齢化が進み、マネタリーベースを増やしても我が国の経済停滞感は拭えず、日本銀行の保有する国債残高は増え続ける中、一般会計歳出の3分の1以上を社会保障関連費用が占めており、社会において医療が担う役割やあるべき姿は転換点を迎えつつあると考えております。一方で、医学が生命の仕組みを明らかにし、一人一人の人生を豊かにしより良い社会の実現を目指すという点はこの先も揺るがないものだとも感じています。今回、学会に参加させていただき、社会課題と向き合う上で学問の発展は欠かせないものだと感じました。まずは地に足をつけて、自分自身の学業と研究活動を一つずつ進めていきたいと思います。学会に参加させていただき、今後につながる刺激を受けることができました。以上、参加報告となります。