お知らせ

6年薗部亮祐さんの学会発表報告

AACR annual meeting 2023に参加して

名古屋大学医学部医学科6年 
腫瘍生物学所属
薗部 亮祐

1.概要
 2023年4月14日から19日にかけてアメリカ合衆国フロリダ州オーランドのOrange County Convention Centerにて開催されたAACR annual meeting 2023に参加した。私にとって初めての海外学会参加の機会であり、目の前のすべての物事が目新しく、貴重な経験となった。がん研究の最先端に触れ、国内では味わうことのできない数多くの学びと驚きを感じることができた数日間であった。

2.学会について
 AACR(American Association of Cancer Research)はがん研究の基礎分野に重きをおいた学会であり、学会誌としてCancer Researchを発行している。実際発表内容は、昨年参加した日本癌学会学術総会(JCA)よりも基礎寄りのものが多かった。会場はそれはもうとんでもない広さで、端から端まで歩くのに15分はくだらないであろう。参加者は21,500人を超え、カジュアルな服装の人も多く、一種のお祭りのように思えた。この規模の学会を毎年別の都市で開けるのだから、やはり国力の差を感じざるを得なかった。最も違いを顕著に感じたのは企業ブースの出展の多さである。実に500を超える企業が国内外から参加してブースを構えており、華やかであった。聞いたところによると、国内学会でも以前はもっと規模が大きかったが縮小してきているとのことだ。がん研究に対する投資の差が格段に違うことを思い知った。

3.発表について
 私がポスター発表を行った演題は「Long non-coding RNA TUG1 promotes cisplatin resistance in ovarian cancer via DNA polymerase eta(長鎖非翻訳 RNA TUG1によるDNAポリメラーゼηの発現上昇は卵巣癌のシスプラチン耐性獲得に関与する)」である。抗がん剤耐性に関する演題は数多く存在したが、その中でも膠芽腫、トリプルネガティブ乳がん、卵巣がんを扱う研究が多い印象を受けた。ポスター会場は人の波でごった返しており、その中でも人がひっきりなしに集まってくる発表が散在していた。私の発表にも足を止めてじっくり聞いてくれる人がおり、研究者冥利に尽きる思いだった。国内学会と比して、対等な立場からの興味本位の質問が多いように感じた。質問される内容やアドバイスから、この研究の関心を産むところや脆弱な箇所を他人の目線から捉えることができ、非常に勉強になった。多数の異なる研究者とディスカッションを行い、意見を仰ぐことの重要性を身にしみて感じた。

 私も関心のあるポスターを見つけてはとりあえず発表者に話しかけてみた。私の拙い英語にもフレンドリーに対応してくれる方ばかりだった。アジア系の人は多かったものの、日本人の発表者が少ないように感じた。現在アメリカのポスドクの大多数は中国系やインド系の人が占めるそうで、彼らの勢いに日本人も飲まれないようにしないといけないと感じた。
 私が聞いた中で最も印象に残っているのは昨年2022年にノーベル化学賞を受賞したCarolyn Bertozzi先生の発表である。腫瘍細胞表面の糖鎖修飾に着目した免疫抑制に関する研究内容であった。先生の発表は非常にわかりやすく且つ面白く構成されていた。糖鎖研究は盛り上がりを見せている分野だが、私自身不勉強だったので学ぶことが多かった。

企業ブースのほんの一部
企業ブースでゲットしたものたち
会場の一つ

4.その他
 学会主催のランイベント(AACR Runners for Research 5K Run/Walk)に参加した。研究者やがん治療後の一般市民が参加するイベントで、がん研究に充てる資金集めの側面も持つ。研究機関や研究者は社会から遮蔽されていることが多いため、社会や市民とのつながりが見えにくい。しかし本来研究は社会還元を一つの目的とするべきであり、学会期間中にこういった活動を兼ねることは研究者・市民双方にとって研究の意義を再認識できる良い取り組みだと感じた。なかなかの好成績(449人中14位)を収めることができたので良かった。

5.謝辞
 本学会に参加して世界のレベルを知ることで、自分の現在の立ち位置と将来目指すべき高みを把握することができました。日頃から手厚くご指導していただき今回このような貴重な経験の場を与えてくださった腫瘍生物学教室の先生方、並びに数々の面で支援していただいた学生研究会の皆様に心より御礼申し上げます。

スタート前のラボメンバー