お知らせ

4年竹田聖彩さんの研究室訪問報告

タイ国立チュラロンコン大学訪問及び研究発表の報告

名古屋大学医学部医学科4年 
健康スポーツ医学(環境医学研究所)
竹田 聖彩

基礎医学セミナー最優秀賞受賞者への海外渡航補助を受け、所属研究室でご指導いただいた先生のタイ、チュラロンコン大学医学部への研究室訪問、研究プロジェクトの国際間連携相談に同行させていただきました。今回、私は基礎医学セミナーで発表した脳内報酬系中脳腹側被蓋野でのprotein tyrosine phosphatase 1B(PTP1B)欠損モデルと、さらにドーパミンニューロンの投射先である線条体のPTP1B欠損モデルの結果も加えての発表を行いました。約十分間の口頭による英語プレゼンテーション形式で、チュラロンコン大学医学部の学生さんや多くの研究室の方が聴衆として訪れてくださり大変貴重な経験となりました。それに加え、タイバンコクの中心地に位置するサミティベート病院へ病院見学も伺うことができました。この渡航のレポートとして、少しばかり綴らせていただきます。
私は今回の6日間の渡航で、タイバンコクにあるタイ国立チュラロンコン大学に訪問し、研究発表、研究室見学を行いました。私は三年時のカリキュラムである基礎医学セミナーのご縁から、健康スポーツ医学教室に所属し、その半年間で主に中枢神経系での報酬系におけるPTP1Bの役割についての研究など、肥満や糖尿病と深く関わる内容を学びました。このPTP1Bの阻害剤は将来的に、肥満で認められる食行動異常に関わる報酬系の機能異常を改善する薬として使用が期待されるものです。糖尿病は飽食の時代背景からか、患者数が増えている傾向にあります。タイでは若者の糖尿病患者が増加の傾向にあり、未診断の患者数の多さや、その合併症の発症が問題になっています。IDF(international diabetes federation)では、世界の糖尿病患者の分布が統計として取られていますが、日本とタイは同じ西太平洋エリアの国として規定され、この西太平洋エリアの糖尿病患者数は、世界の患者数の38%を超えています。そのことから日本とタイが共同研究を行い、国際協力することは重要であると考えられ、今回の渡航に至ることとなりました。英語での発表はお互いに第二言語であることもあり、少し不安がありましたが予想以上に数多くの方が参加し、質疑の議論も活発に起こりとても驚きました。やはり糖尿病への注目度の高さや、国際交流の重要性の認識の高さが窺えます。
チュラロンコン大学からは糖尿病治療の診療体系の詳細や、現在行われている臨床研究についての発表がありました。チュラロンコン大学でのオンラインによる体系化された糖尿病診断法は印象的なものです。血液データがネット上で送られ、ズームを使用して看護師さんがハンドブックに応じた患者振り分けを行い、さらにネット上で医師が診察を行うネットワークシステムが完成されており、患者数の多さやコロナ禍ゆえに発展した仕組みを感じました。
お話を重ねる上で、国際連携プロジェクトとして名古屋大学の健康スポーツ医学教室と共同研究を行いたいと提案をされたチュラロンコン大学医学部生化学教室の教員のお話も面白く、学ばせていただくことが多くありました。主にin vitroの系で、肝臓の繊維化を見ている方ですが、今回私も発表したPTP1Bについて、「PTP1B欠損下で肝臓の繊維化が下がるデータがあり、さらに繊維化の際はPTP1Bの発現が増えることが分かっている。PTP1B遺伝子欠損モデルマウス以外にも、PTP1Bの拮抗薬を使用した際のデータを取りたい」とおっしゃっていて、こんなところで繋がるのかと驚きました。タイのin vitroの研究と、名古屋大学におけるin vivoの研究の組み合わせによる国際交流が成立するかもしれない、貴重な機会に同席させていただけたことに感謝しました。
時を同じくして訪問させていただいたサミティベート病院は、年間13万人以上の日本人が訪れる、東京ドーム一個分の敷地を持つ大規模な病院です。日本人医師の方も3名いらっしゃり、医療相談等を行っていました。日本の医師免許はタイで使用できず、医師として働くためにはペーパー試験やタイ語での面接に合格する必要があるそうですが、現在バンコクには2名のタイ医師ライセンスをもった日本人の方がいらっしゃるそうです。タイ人医師の方は全員が個人事業主として病院と契約を交わしているそうで、日本とかなり違う雇用体系にとても驚きました。
今回の研究渡航で基礎研究の面からも、病院見学の臨床の面からも同時に数多くのことを学ぶことができ、その二つの組み合わせからか、より深く重なり合うように医学を学ぶことができたと思います。
この場をお借りしてこの機会をくださった研究室の先生方、学生研究会のみなさま、タイの関係者の皆様に感謝申し上げます。