お知らせ

3年中川はつみさんの全国リトリート2025開催報告

全国リトリート2025を主催して

名古屋大学医学部医学科3年
分子細胞学
中川 はつみ

 このたび、2025年3月16日から17日にかけて開催された「基礎研究医養成イニシアチブ全国リトリート2025」において、名古屋大学が主幹校を務める運びとなり、僭越ながら学生代表という立場を務めさせていただく機会を頂戴いたしました。
 本リトリートは、全国各地の医学生がそれぞれの研究成果を携えて一堂に会し、それを発表するとともに自由闊達な議論を通じて相互に学びを深め合う貴重な機会であり、数年に一度、大規模な学会と連動して開催されます。今回は幕張メッセにて開催されたAPPW(第130回日本解剖学会/第102回日本生理学会/第98回日本薬理学会合同大会)に併せての実施となり、100名を超える方々にご参加いただきました。
 私たち医学生は、日々の研究活動において一定の専門領域を掘り下げながら学会発表等に励んでおりますが、その中では大学院生やポスドク、指導教員との関わりが中心であり、他大学の学部生と研究について語り合う機会はそう多くありません。今回のリトリートでは、全国から集まった多様な背景と関心を持つ学生たちが、それぞれの研究を介して対話し、互いに触発し合うことで、単なる情報交換を超えた深い知的交歓の場が形成されていたように感じます。
 実際に、学部生でありながら筆頭著者として論文を発表されている方や、本リトリート後のAPPWにおいてポスター賞を受賞された方々も多数参加されており、そのレベルの高さには驚かされるとともに、大きな刺激を受けました。単なる「すごさ」では表現しきれない、参加学生の問いへの向き合い方や探究の姿勢には心を打たれ、私自身、より一層研究に真摯に向き合いたいという思いを新たにいたしました。
 ポスターセッションにおいては、発表者と聴講者がポスターの前で時に真剣に、時に柔らかく対話を交わしながら、時間いっぱいまで思索を深め合う様子が各所に見られました。セッション終了のアナウンスが流れてもなお、その場を離れがたく語り続ける姿、立食会の時間に入ってもなお議論の熱が冷めることなくポスターの前に立ち続ける学生たちの姿は、研究という営みが単なる成果発表ではなく、対話と共感を通じて新たな知を生成していく過程であることを、何より雄弁に物語っていたように思います。深夜に至るまで、研究に関する話題はもちろん、医学生としての悩みや将来への思いなど、尽きることのない語らいが続き、大変充実した時間を過ごすことができました。
 今回のリトリートを通じて、研究という営みの本質にあらためて立ち返る機会を得ました。それは単なる知識の蓄積ではなく、自己の問いを深めながら、他者との対話を通じて思考を鍛える、極めて内省的かつ創造的なプロセスであるということです。異なる分野的関心や方法論を持つ同世代の医学生との議論は、思考の射程を拡張し、「他者の問いに触れること」が自らの問題意識を照らし返す鏡となることを実感させてくれました。
 また、医学生としての立場から基礎研究に従事するという行為が、単なる専門性の獲得にとどまらず、生命や疾患、そして人間存在そのものに対する包括的な問いに向き合うことであるという認識が、より一層明瞭になりました。得られた刺激と示唆を糧とし、今後は研究に携わる者としての視座を一段引き上げ、単に結果を追い求めるのではなく、問いを育て、概念の精緻化を図る思考の態度を大切にしながら、学問と実践の架橋を目指して、より一層研鑽を積んでまいりたいと考えております。