2025年6月22~27日に、フランス南部の都市モンペリエで開催された第19回Negative-strand RNA Virus Meeting (NSV2025) に参加した。私は、昨年度後期の基礎医学セミナーでETH Zürichに留学していたが、今回の学会では、留学中に取り組んだ研究内容、および留学前に名古屋大学で取り組んでいた研究内容に関するポスター発表を行うことに加え、海外の研究者との議論を通して、ウイルス学に関する新たな視点を得ること、そして自身の将来の方向性を決める手掛かりを得ることを目的とした。
そもそもNSVとは、インフルエンザウイルスや麻疹ウイルス、ムンプスウイルスのようなマイナス鎖RNAウイルスの研究に関する学会であり、1969年に第1回目が開催されて以来、約3年に1度、ヨーロッパや北アメリカにおいて開催されている、伝統ある学会である。マイナス鎖RNAウイルスというだけでかなり限定された領域であるように感じられるが、実際に参加してみるとそうではなく、ウイルスの細胞内侵入から細胞外への出芽といった感染の各段階に関する研究、また、空気感染のメカニズムや近年注目を浴びているmRNAワクチン開発に関する研究など、非常に多角的な側面からウイルスというものへの研究が展開されているということに気付いた。
現在私は、A型インフルエンザウイルスの細胞内侵入時における宿主タンパク質とウイルスゲノムの相互作用について研究を進めているが、このような「細胞侵入時」かつ「宿主タンパク質」という側面に着目している研究は、なかなか少ないのではないかと感じた。私は留学中、「ウイルス学、細胞生物学、バイオイメージングという3つの異なる領域を結びつけることによって、新たな研究テーマが生まれる」ということを教わったが、本学会ではまさにそのような異分野の「協奏」が世界中で、 かつリアルタイムで行われている結果としての研究成果に多く触れることができたと思う。また、自分自身が今後医師・研究者として、どのような領域・観点からその協奏に加われるのか、ということを深く考えるきっかけとなった。
国際学会への参加は、今回が2度目であり、国内も含めれば4回目のポスター発表であった。そのため、発表時には特段緊張することなく、自分の研究の面白さや魅力を伝えることができたと思う。その結果、私が紹介した実験を既に実際に試してみたが上手くいかず、どうすれば良いか教えて欲しい、というコメント・質問を戴いた。その研究者とはその後数分間議論し、自分なりの考えを述べた。しかし、それ以上に、自分自身が立場や学位に関係なく、対等な研究者として見られているということを、身を以て体験する非常に良い機会であった。これは留学中にも感じたことであり、日本では「学部生」「大学院生」「教官」といった「身分」が重要視される場面が多々あるように感じられるが、海外、あるいは「学会」や「論文」といった場面ではそのようなことはなく、実力や業績がものを言う、ということは、今後医師・研究者として生きていく上で、肝に銘じるべきことであると感じる。
一方で、「この研究のTake home messageは何か」と問われたこともあった。上述のようなことを考えれば、何かを発表する際に明らかな「新規性」が要求されるのは当然のことであろう。しかしながら、自分自身が作成・準備したポスターやプレゼンテーションからは、そのような「新規性」を読み取ることが難しく、それゆえ改めて問われてしまったというのは、自分自身が「学部生」という「身分」に甘んじていたことの大きな反省点である。今後学会や論文で発表する際には、外部へ公開するに耐えうるデータと共に、研究の肝である「新規性」をアピールすることを一層重視していきたいと思う。
A型インフルエンザウイルスは、ウイルス粒子内に8本のゲノム複合体を持っているが、100題以上あった講演のうちの1つに、これら8本をそれぞれ異なる色で染め分け、その行方を細胞への感染サイクルの中で追う、という研究成果の報告があった。この技術に対して私は純粋な感動を覚え、これを自分自身の研究テーマに応用したらどのようなことが可能になるだろうかと考えていたが、学会全体を通して、自分が「試してみたい」「これができれば良いのに」と思ったことは、世界中を探せばできる人が必ずいるのではないかと思うほど、様々な技術が存在しているということを学んだ。しかしながら、それらをすべて自分自身1人で行うことはできないため、今回のような国際学会に積極的に参加し、世界中の研究者と知り合うことで、必要な技術を「借りる」ことが可能になると思う。
今回の学会では総じて、世界の研究者の方々と議論・協奏することの重要性を学んだ。新たな視点や考え方、知識などに加え、国内では得られないような刺激や価値観に触れることによって、世界をリードするような新しい「もの」が創造されていくということを忘れずに、今後も大学生活や研究を全うしていきたいと思う。
このような有意義な国際学会に参加することを許可いただいた木村教授、研究発表指導および全日程を通して様々なサポートを賜った三宅准教授、海外渡航出張処理などでご支援いただいた学生研究会の黒田准教授、安部様に心から御礼を申し上げます。また、渡航費のご支援を賜った中京長寿医療研究推進財団様に、深く感謝申し上げます。