9月15日と16日にイギリスのレスターで開催された Global Empathy in Healthcare Network Symposium 2025: ‘Rehumanising Healthcare in a Divided World’ に参加しました。この研究会ではヘルスケア領域における「共感 empathy」を共通のテーマとして、さまざまな研究や教育における取り組みの発表、ワークショップなどが行われました。私にとって初めての海外渡航だったため緊張しましたが、世界各国の共感に関するお話を聴くことができ、貴重な機会となりました。
私は「Constructing a Conceptual Model of Empathy in Attending General Practitioners: A Qualitative Study」というタイトルで研究内容を発表しました。ポスター発表は今回が初めての経験であり、準備段階ではポスター1枚に研究内容をまとめることに苦戦しました。本研究はインタビューの内容を質的に分析する手法をとったため、研究結果は主に言葉で記述されました。そのため、ポスターに記載する語句と口頭で説明する内容を選別しながら制作することが難しいと感じました。また、ポスターが文字で溢れたものにならないように、視覚的な工夫が必要でした。こうした作業を通じて、研究の意義や伝え方に関する検討ができたことは、よい経験になったと感じました。当日は、聴き手の反応を間近で見ながら説明することに緊張しました。発表後には研究結果に対するコメントをいただくことができ、嬉しく感じました。基礎医学セミナーや国内学会での発表では手法に関連した質問が多かったため、結果・考察に目を向けたコメントをいただけたことは新鮮で、研究の意義を見直す機会になりました。
また、ポスターセッションでは他の参加者の研究を見て回りました。私たちの研究と似た「共感とはどのようなものと捉えられているのか」というテーマの研究がいくつかあり、自身の研究と比較しながら内容を見ることができました。先行文献を読んでいた際も感じていましたが、やはり似たテーマの研究では、結果に似通った部分があると感じました。そのため、自身の研究の意義を強調するためには、研究参加者の背景にある文脈が共感の認識にどのような影響を与えているのかを深く分析することで、文化的・社会的な特徴を明らかにする必要があると実感しました。
研究会では口頭発表やプレナリーセッションを聴く機会がありました。共感についての質的研究も複数あり、研究手法やパラダイムについて学びを深めることができました。これらのセッションを通じて感じたことは、医療者・医学生の共感をよりよいものにするための教育が重要なテーマになっているということです。ある大学では入学後のオリエンテーションから卒業に至るまで、各学年でさまざまな共感教育を行うという取り組みがなされていました。日本の大学でも実践できそうな教育だと思いながら聴いていましたが、同時に、日本で求められているのはどのような教育なのだろうかという点も感じました。日本でも共感が重視されているのは共通していると思いますが、日本の文脈に合わせた共感の定義や教育の取り組みを考える必要があると感じました。
研究会を通じて得た反省は、やはり英語力が不足しているという点です。口頭発表や講演を聴いていても内容を十分に理解することができず、また内容を理解したうえで議論に参加するということもできませんでした。研究会に向けて始めた英会話アプリは今後も継続しつつ、普段から意見や質問をすばやく組み立てられるような論理的思考力を身につけていきたいと感じました。
空き時間には、レスター大学とその周辺を散策しました。大学構内にはAttenborough Arts Centreという施設があり、無料で見られる展示や市民向けワークショップなどが開催されていました。建物内には貸し切りできるホールやスタジオもあり、市民が利用できる公共の場としての性格をもつ施設があるというのは、大学と市民との関わりの一形態として興味深いと感じました。
最後に、今回の研究会発表に際して、中京長寿医療研究推進財団様にご支援いただきましたことを深く感謝申し上げます。学生研究会の安部様、黒田先生には、旅費助成や保険などの手続きで大変お世話になりましたことをお礼申し上げます。そして、髙橋先生、松田様をはじめ地域医療教育学講座の皆様には、発表準備から研究会参加に至るまでご指導いただきましたことを感謝申し上げます。