お知らせ

4年鷲澤拓登さんの学会発表報告

第38回インフルエンザ研究者交流の会シンポジウム

名古屋大学医学部医学科4年生
ウイルス学所属
鷲澤 拓登

 2025年7月24~25日に、東京都八王子市で開催された第38回インフルエンザ研究者交流の会シンポジウムに参加した。私はこれまで、国内、海外におけるポスター発表の経験は何度かあったが、口頭発表は未だ経験がなかった。また、日本国内のインフルエンザ研究者のお話を聞く機会もこれまでなかったため、今回の学会では、国内におけるインフルエンザ研究の現状や方向性を学ぶこと、および日本語での口頭発表の経験を積むことを目的とした。
 インフルエンザは、ヒトにおいては季節性の流行など呼吸器系の疾患であるが、豚や鶏などの動物にも感染する人獣共通感染症である。本学会の演題を拝聴し、日本国内におけるインフルエンザ研究は、主に獣医学部や農学部で活発に行われているという印象を抱いた。豚や鶏に対する感染を抑えることは、日常生活で食卓に並ぶ豚肉や鶏肉、また鶏卵の安定供給のために、すなわち食料安全保障のために重要である。また、過去にはAIDSやCOVID-19など、ウイルスが動物からヒトに伝播することで感染が広まってしまった感染症も存在する。このような事例からも、インフルエンザウイルス研究はヒトのみならず動物の観点からもアプローチしていくことの重要性が理解できる。実際、演題の中には、鶏舎での感染拡大を防ぐための取り組み、海水、湖沼水、蒸留水それぞれにおけるウイルス感染力の違い、クジラの潮に存在し得る新たなウイルス株の調査、など、普段私が学んでいる環境とは全く異なる視点から為された、分子生物学・細胞生物学というよりも疫学的なインフルエンザ研究がほとんどであった。
 現在、インフルエンザウイルスに感染し発症したとしても治療薬・治療法は確立されており、教科書的には「治る病気」である。従って、人間社会での季節的な蔓延をいかにして防ぐか、新興・再興感染症を生み出したり食料不足を招いたりしかねない動物感染症をいかにして防ぐか、といったテーマの方が、社会的な需要は大きいのかもしれない。しかし、それでもなお私が現在取り組んでいるような細胞生物学的なアプローチも重要である理由を、本学会への参加を通して私なりに考察した。
 現在の私の研究テーマの決定的な特徴は二つある。一つは、ウイルスのみならず「宿主」に着目していることである。現在のインフルエンザ治療薬は、ウイルスタンパク質のみをターゲットとしているが、私の研究ではまさに我々の細胞内で重要な役割を果たしている「宿主」のタンパク質が、ウイルスに巧みに乗っ取られていくプロセスに着目している。このようなウイルスと「宿主」の相互作用は、懇親会で北海道大学名誉教授の喜田宏先生とのお話の中でお聞きしたように、宿主がいなければそもそも成立し得ない「感染」に対する理解を深める上で、非常に重要な視点であると言える。
 もう一つは、細胞内の非常に「ミクロ」なメカニズムに着目している点である。本学会で拝聴した研究は上述のように、「マクロ」なアプローチが中心的である。そのため、これらの「マクロ」と「ミクロ」が互いの知見を共有し合い、巧みに協奏することによって、将来的にはより科学的かつ効率的な感染予防が、社会全体で可能となるに違いない、と私は考えている。
 このような有意義な学会に参加する機会を与えていただいたウイルス学研究室の木村教授、三宅准教授、学生研究会の黒田准教授、安部様に心から御礼を申し上げます。