基礎医学セミナー優秀賞受賞者への海外渡航補助を受け、所属研究室で行なった研究について北米神経科学学会(SFN)にてポスター発表をさせていただきました。今回、私は基礎医学セミナーで発表した「N-lactoyl-Phenylalanine(Lac-Phe)が高脂肪食摂取によって誘発される視床下部炎症を抑制する」というテーマで発表を行いました。5時間程度ポスターのところに来てくださった研究者の方々へ研究内容について英語で説明するという形式で、脳神経の分野を研究している方々が大勢訪れてくださり説明と質疑応答を繰り返していくことで大変貴重な経験となりました。
私は今回の6日間の渡航で、アメリカサンディエゴにあるコンベンションセンターで行われた北米神経科学学会で研究発表を行いました。私は三年時のカリキュラムである基礎医学セミナーのご縁から、健康スポーツ医学教室に所属し、その半年間で主に高脂肪食を摂取すると視床下部弓状核において炎症が起こることや、運動によって産生されるLac-Pheがこの炎症を抑制するという研究など、肥満や糖尿病と深く関わる内容を学びました。従来肥満の治療は大きく分けて食事療法と運動療法があります。運動療法が肥満治療に効果的であることは既知の事実ですが、詳細な機序については未だ不明なところがあります。体重の増減は脳で制御されていますが、運動が脳にどのような影響を与えてエネルギーバランスを調節するかについては機序が定かではありません。この研究では、どうして運動療法が肥満治療に効果的であるかを解明するものです。高脂肪食を食べると視床下部弓状核では炎症が起きます。弓状核には、摂食を促進し運動によるエネルギー消費を抑制する摂食促進系であるAgRPニューロンと、摂食を抑制し運動によるエネルギー消費を促進する摂食抑制系であるPOMCニューロンが存在しています。この二つのニューロンがお互いに調整しあうことで、人におけるエネルギーの恒常性は保たれているのです。しかし、この部分で炎症が起きるとこの恒常性が破綻してしまいます。つまり、高脂肪食を摂取するとエネルギーのバランスを保つ機構が崩れてしまい肥満へと繋がるのです。ここで今回の研究対象であるLac-Pheは運動によって産生され肥満に効果的であるということは先行研究でわかっていましたが、どうして肥満に効果的かは明らかになっていませんでした。Lac-Pheは視床下部弓状核における炎症を抑制することで肥満を改善しているのではないか、という仮説をもとに行なったのが今回の研究です。アメリカで驚いたことは日本ではなかなか見ないような、肥満だろうと推測される大きな人が町中に大量にいたことです。日本にいても肥満はたびたび問題だという話は聞きますが、アメリカのこの現状を目の当たりにして、肥満や糖尿病に対する研究の重要さを強く感じ今回の研究の価値を再認識しました。このような内容を慣れない異国の地で英語を使って発表するということはとても緊張しましたが、ポスターに興味を持ってくださった方々が熱心に聞いて質問をしてくださり、そのようなことを何回も繰り返す中で、段々と英語で発表をすることへのハードルが下がっていきました。
自分の研究発表以外にも、他の発表者のポスターもいくつか聞きに行ってみました。どうしても内容が難しいものは英語で説明されても理解が難しいのでわかりやすそうなものはないかと無数にあるポスターの中から探してみたところ、私が行なっている陸上に関する研究発表があったので興味を持ち質問などをしながら研究者の方と交流させていただきました。国際学会に参加する中で私が感じたことは、研究者の方々の熱狂感です。研究は大変というイメージが強かったですが、生き生きと発表する姿をみて私も刺激を受けるとともに、このような姿勢で研究することに対して強い魅力を感じました。
サンディエゴはメキシコに近いため、料理はメキシコ料理が多く想像していたようなジャンキーなものも食べましたが、タコスのような野菜もたっぷり入った料理が特に美味しかったです。海が近く、開放感のある街で学会の合間に訪れたコロラド島はアメリカンドリームを感じるような美しい島でした。様々な場所で参加される学会に参加することは、普段訪れることのない場所の風土や文化も学べるという点でとても有意義でした。
今回の研究渡航で基礎研究の面から多くのことを学ぶことができ、研究に対するワクワク感というものを医学を通して学ぶことができました。
この場をお借りしてこの機会をくださった研究室の先生方、学生研究会の皆様に感謝申し上げます。また、今回の学会発表に際して、中京長寿医療研究推進財団様にご支援いただきましたことを深く感謝申し上げます。