私は3年後期の基礎研究室配属の頃より細胞生物学教室にて大脳皮質の発生について研究させていただいています。学会への参加は未経験で担当教官の先生からの勧めもあり、この学会に参加しました。学会では自分の研究テーマである、Lzts1による前駆細胞の位置移動が大脳皮質ニューロンの運命に与える影響について口頭発表を行いました。この研究は、Lzts1という遺伝子を過剰発現させることで、大脳皮質ニューロンを生み出す神経前駆細胞と幼若なニューロンの位置を本来の場所より脳表面側に移し、神経前駆細胞とそこから産生されたニューロンがどのような運命を辿るのかを調べ、大脳皮質ニューロンが成熟して固有の個性を獲得する仕組みを考察したものです。
実は学会参加を決めた当初、この解剖学会で何が議論されているのかをほぼ全く知らず、「私自身の研究内容は解剖学の内容ではないのでは?」と少々不安でした。しかし実際に参加してみると、この不安を払拭させるほどに多様な分野の研究が発表されており、非常に刺激を受けました。例えば「解剖学」というイメージ通りの、組織・臓器の構造とその機能に関する報告や解剖実習の手引きに記載された方法より確実に神経を剖出する方法の報告から、神経成長因子や酸感受性イオンチャネルなどの細胞レベルの研究そして医学教育の話題まで幅広くあり、参加されていた他の先生方もこの多種多様さを非常に良く受け止めている印象でした。研究分野の細分化が進み自身の専門外のことはあまりよく知らない状態になってしまっていることが多い今でこそ、この解剖学会のように多様な情報が一度に集まる場が役立つのだろうと感じられました。また基礎研究の内容が脂質異常症の治療やがん患者のリハビリ内容などの臨床現場にかなり直接的に応用されそうなテーマも見られ、自身の中で以前から感じていた基礎研究と臨床との隔たりは意外と小さいかもしれないと考えを改める機会にもなった2日間でした。
さて今回の学会が開催された塩尻市はワインが有名な場所でもあります。塩尻駅のホームからは写真のようにブドウの木が見えます。また名古屋から特急しなので塩尻に向かうと塩尻の次は松本で、天気の良い日は松本駅の出口(アルプス口)から北アルプスの絶景が楽しめるようでした(学会中は残念ながら晴れませんでした)。
最後に、ご指導くださる名古屋大学細胞生物学教室の川口綾乃先生そして宮田卓樹教授をはじめとする先生方ならびに支援していただいた学生研究会の皆様に深く感謝申し上げます。