学会名 :国際医療保健学会第37回西日本地方会
開催地・期日:第一薬科大学(福岡市) 2019年3月2日
発表内容 :演題「パラオ青少年における依存性物質使用に対する親・友人の影響」
テーマ「健康教育」
座長 :新地浩一
上記の演題について、以下の内容を口頭発表を行った。
【背景・目的】パラオ共和国は西太平洋(ミクロネシア地域)に位置する人口2万人ほどの島嶼国である。パラオ保健省の報告書(2012年)によると、パラオの青少年は大麻、ビンロウジ等の依存性物質の使用経験の割合が高い。大麻では米国(約40%)と比べ、パラオ(約60%)ははるかに高かった。本研究の目的は依存性物質の使用と、親および友人の意向との関係を明らかにすることである。
【方法】2015年、パラオ保健省はパラオ全国の公立中高生(中学校8校、高校1校)を対象として匿名自記式アンケート調査(Core Measures Survey)を実施した。過去30日間のアルコール、タバコ、大麻、ビンロウジの使用の有無、親および友人は自分の物質使用にどの程度反対するか(4段階)の項目に着目して解析を行った。統計ソフトEZRを用い、中学生と高校生の2層に分け、カッパ係数およびスペアマンの順位相関係数を計算し、各物質使用と周囲の反対との相関を示した。また、多重ロジスティック回帰モデルを用い、年齢、性別などの因子を調整し、関連傾向の有意性を確認した。また、2018年10月24日から31日にかけて実際にパラオに赴き、国立病院、保健所、小学校などを訪問して、保健医療状況について観察した。
【結果】解析に必要な項目に欠損値のある対象者を除き、合計932名(男性474名、女性458名)のデータを解析した。対象者(中学生419名、高校生513名)の平均年齢は14.4歳であった。アルコール、タバコ、大麻、ビンロウジの使用率は、中学生でそれぞれ14.8%、29.1%、19.1%、25.3%であり、高校生では31.3%、35.2%、32.3%、40.7%であった。親が自分の物質使用に反対しないだろうと回答した者は、中学生では各物質について18.4%、15.5%、14.1%、32.7%、高校生では12.1%、11.5%、12.8%、34.2%であり、友人が自分の物質使用に反対しないだろうと回答した者は、中学生で33.7%、34.6%、29.6%、40.8%、高校生で46.9%、44.6%、47.7%、52.7%となった。物質使用と親および友人の反対について、中学生のタバコ、大麻使用では親より友人の影響が大きく、高校生では2物質に加えてアルコールでも友人の影響が強かった。また、中高生に共通して、ビンロウジでは親の影響が特に大きかった。中学生では年齢が上がるほど全ての物質の使用率が上昇し、高校生では女性よりも男性が使用する傾向が高かった。以上の結果は多重ロジスティック回帰モデルでも裏付けられ、さらに物質の使用傾向は親および友人の反対が増大するほど有意に低下していた。
【考察】各依存性物質の使用では、友人の影響が大きいことから、学校などで同年代層から介入するのが有効ではないかと考えられる。ビンロウジは合法で、伝統的文化の一部として社会的に受け入れられており、人々はビンロウジの健康リスクを認識していない(Griffin 2014)。タバコと大麻の使用には似た傾向が見られため、パラオでは大麻をタバコと同じように扱っている可能性がある。タバコと大麻の使用は、より依存性の高い麻薬使用につながる可能性があり(Keyes 2018)、特に注意が必要である。パラオでは、21歳未満のアルコールの販売と使用は法律で禁じられているが、タバコは18歳未満への販売が禁じられているのみである。アルコールとタバコとの使用率の乖離は法律上の違いによる可能性がある。18歳未満の物質使用を防ぐためには、法定年齢を上げるのが効果的(Schneider 2015)との指摘もある。