1. 概要
12月1〜3日にパシフィコ横浜で開催された分子生物学会に参加してきた。日本の生物学・基礎医学分野の学会としては最大規模の学会の1つで、今年度は新型コロナウイルス感染症の流行を鑑み、現地参加とオンライン参加を併用した開催となった。
2. 研究内容と学会について
今回の学会参加に際しては、指導教官の発表に同行させていただいた。発表内容はオートファジー不全細胞に見られたタンパク質の異常局在についてである。オートファジーは栄養飢餓などに陥った細胞が自身の細胞質の一部を分解して、再利用する現象であり、パーキンソン病など様々な疾患と深く関係していることが知られている。本発表ではモデル生物である出芽酵母を用いて得られた結果が示された。対数増殖期の出芽酵母が静止期に入る際に、液胞膜(哺乳類細胞のリソソームに相同するオルガネラ)にはエルゴステロールリッチな膜ドメインが形成され、液胞は球形から多面体へと著しく形態を変化させる。細胞質中の脂肪滴はこの液胞膜ドメインと接着し、包み込まれるようにして、すなわちミクロオートファジーにより液胞内に取り込まれる。このような脂肪滴の分解機構は静止期ミクロリポファジーと呼ばれている。これまでにニーマン・ピック病C型タンパク質のホモログであるNcr1(液胞膜貫通タンパク質)とNpc2(液胞内腔タンパク質)による、液胞内腔から液胞膜へのステロール供給が膜ドメイン形成、ミクロリポファジーに必須であることが見いだされていたが、静止期ミクロリポファジーの分子メカニズムは多くが未解明であった。その中でも、オートファジー関連(Atg)タンパク質がどのようにミクロリポファジーに関わるのかは大きな謎として残されている。発表では、静止期atg遺伝子欠損細胞ではVph1などの液胞タンパク質が正常な分布を示すのに対し、Ncr1/Npc2は液胞に分布せず、液胞外のドット様構造に集積することが示された。さらに興味深いことに、Ncr1/Npc2の局在異常は静止期培地を除去することで速やかに解消され、再び同培地を戻すことで再現された。このことからatg遺伝子欠損細胞の静止期培地に含まれる何らかの物質が液胞タンパク質の異常局在に関与すると考えられた。野生型細胞とatg遺伝子欠損細胞培地中の代謝産物X濃度を測定したところ、atg遺伝子欠損細胞培地中にはおよそ2倍の成分Xが含まれていること、またXを添加した野生型細胞の培地によりatg遺伝子欠損細胞のNcr1/Npc2異常局在が誘導されることが分かった。これらの結果から静止期atg遺伝子欠損細胞では培地中の液性因子XがNcr1/Npc2局在異常の必要条件であることが示された。発表は英語で行われ、発表後は、どのようなメカニズムで異常局在が起きているのかについてなど、活発な質疑応答が繰り広げられていた。ワークショップではこの他にも液胞やリソソームの多彩な機能についての発表があった。これらのオルガネラはこれまで分解を司る区画として認識されてきたが、細胞周期の制御などの新しい機能について興味深い情報を得ることができた。
分子生物学会については、様々な分野の研究者の方々が参加されており、臨床医学も学んだ6年生で参加することで低学年の頃よりもより理解ができる分野も多くなったように感じ、面白さを感じた。国家試験の勉強が続く中、いい刺激も受けた。また本学会は高校生が参加するプログラムもあり、高校生から基礎医学に興味をもつきっかけになると感じた。また、今回はオンライン参加ができたということもあり、毎年参加されている指導教官に伺うと、やはり現地の人数はコロナ禍以前より少ないということであった。事前にワクチン接種の証明書を提出するなど、様々な感染対策がとられており、主催者側の苦労も感じられた。
3. 謝辞
今回、新型コロナウイルス感染症の流行で学会が軒並み中止やオンライン開催となる中で、学生の間に現地に行って学会の様子を体感できたことは、今後の財産になると感じました。今回の学会参加にあたり、中京長寿医療研究推進財団様にご支援いただきましたことをここに深く感謝しいたします。ありがとうございました。