インタビュー

ルーチンワークは何ひとつない。
方法論を駆使して進もう!

名古屋大学
環境医学研究所
神経系分野 I 教授
竹本 さやか PROFILE ※2017年3月当時

神経細胞の不思議な形に、心惹かれた。

私のキャリアパスは分かりやすい。臨床医を1年だけ経験して、その後は基礎研究一筋です。医学部在学中に、研究職も面白そうだと思って先生に相談したところ、興味があることを先にやって、あとで臨床に戻る選択もあるとアドバイスをいただきました。思いのほか、研究の道にも進みやすいのだと思い、医学部の講義で興味が湧いた「組織学」が応用できる分子神経科学の分野へ進みました。当時は神経内科の研究が急速に進んでいるときで、新しい診断体系が提唱されたこともあり、これからやるべきテーマがきっと見つかると、前向きな気持ちで進路を決めた覚えがあります。この分野では神経細胞をあらゆる角度から観察するのですが、「なんでこんな形なんだろう」「どうやってこんな形になったんだろう」と素直な疑問を大切に、地道に研究を重ねていきました。その後は、大人の脳で神経細胞がどう変化していくのか、大人の脳における神経細胞の変化は分子レベルでどう起こっているのか、というふうにテーマが発展していき、いまは疾患に関わる内容にも取り組み始めています。

独自性を優先するか、
一般性のあるテーマを選ぶか。

研究でたぶん最初に難しいと感じるのは、テーマの選定です。自分の好奇心とか独自性をもつことは大切。でもその一方で世界的に注目されるような競争力を持った内容を突き詰めていくことも、意義深いことです。世界でひとりしかやっていない研究をやってもいいけど、なかなか進まない。
テーマを設定したら、日々地道に実験を繰り返していきますが、小さな発見を喜べる人が基礎研究に向いていると思います。研究は船に乗って大海原で島を探すようなものなのです。最終的には未開の無人島を見つけたいけど、航海中に魚がはねるのを見つけて喜ぶような、そういう小さな発見を楽しみながら、大きな発見を目指す。小さな発見なんてつまらない、と思ってしまうのは危険です。そこから別の研究テーマに発展していく可能性もあるからです。どんなことも、楽しみながら。それが研究に向き合う中でいちばん大切なことです。

様々なアイディアを
チームで検証する喜びがある。

基礎研究の面白さは、臨床研究などで「これがリスク遺伝子かな?」と疑われたことを、さらにその機能や、実態を深く掘って明らかにしていくところにあります。生命の真理を探求することは、とてもクリエイティブ。自分のアイデアに基づいて、いろいろな方法論を用いて検証し考え、結論を導いていくのです。そのプロセスが身につくと、どんどん楽しくなっていきます。私の研究室では「自分で考える」ことを第一に、世界を相手に自立した研究者が育つ教育体制を大切にしています。私一人で考えるのではなく、みんなが自立してアイデアを共有しながら進んでいけるようにしたいと考えています。また、研究の上ではチームワークも大切です。皆で連携して効率的に研究を進めることで、研究計画をスムーズに進めることができる。私自身、子育てと両立しながら研究を続けていますが、仕事をシェアしながら進めることができると大変ありがたいですし、研究生活にメリハリが生まれると思います。研究の世界は、時間ではなく結果が問われる世界です。育児などでたとえ時間が短くても、素晴らしい結果が出れば、高い評価が得られます。そういう意味で、性別に関係なく活躍できる世界だと思います。

「二足の草鞋」を履かず、
突き進む人生もある。

医学部に進学する、イコール医師になる。と考えている医学生は多いと思います。でも、私のように基礎研究のキャリアの方が長い医学部出身者もいる。そんな医師人生の歩み方もあるのだということを、知ってほしいと思います。医学部の講義を受ける中で、様々な組織の仕組みや機能について興味を持つこともあるでしょう。それを疑問のままにすることなく、思い切って自分で突き止めてみようとすることで、新しい発見が次々とできます。私は結局「二足の草鞋」を履くことなく、基礎研究一筋でよかったと思っています。もっと、将来の選択を柔軟に考えて、自らの活躍の場を見つけてください。私は基礎医学研究者の立場から志のある若者をサポートします。