インタビュー

まずは自分のやりたいことを追求。
それが臨床にも研究にも活きてくる。

名古屋大学大学院
医学系研究科
細胞生理学 教授
久場 博司 PROFILE ※2013年3月当時

「良い臨床家は、良い研究家である」

学生時代から、臨床と研究の両方に興味がありました。実は私の父が研究者で、そんな父を身近で見ていたので、研究に対しては自由で独創的なモノづくりに近い印象を持っていました。そんな楽しそうなイメージもあり、臨床を一度経験した後に、大学院に入り研究をはじめたんです。「良い臨床家は、良い研究家である」とよく言われます。既存のアプローチを当たり前と思わず、ベストな方法を常に工夫していくなど、研究で培われる視点は臨床にも共通して大事なこと。通じる部分がある臨床と研究を、分けて考える必要はありません。すべては後に繋がるのだから、最終的な道を決めるのは、それからでも遅くないと思いました。

全ての細胞のカタチに意味がある。

私は、脳の神経回路の研究に携わっています。「なぜ感じたか」という単純なことさえ解明されていない脳の中で、信号が神経でどう処理されて運ばれていくか。その一つひとつのステップを自分が解き明かしていける楽しさや喜びが、私が研究者の道を選んだ理由です。神経細胞のミクロな働きを見ていると、そのカタチや特徴の全てに意味があることが分かってきます。例えば同じ音を聞くという行為でも、高い音と低い音では脳の神経細胞の中で、神経活動が起こる場所の位置や長さは全く違っている。目的に合わせて、細胞は最適に作られているんです。その精巧さには、美しさすら感じます。

失敗には自分たちの理解を超えた
可能性がある。

細胞のカタチや特徴を見て、それがどう働くかを仮説立てて立証していくのが私の研究です。一つ発見があると、またそこから新しい疑問や仮説が生まれてきます。発見はゴールのように見えて、実は次の研究への手掛かりがたくさん示されているスタートなんです。臨床と違って、研究は一割でも成功すれば充分。うまくいかない現象の中から教えてもらう姿勢で、一喜一憂せずにトライしてほしいですね。失敗の中には、自分たちの理解を超えた何かが隠されています。必要なのは、それを見逃さない普段の努力です。その意味に気づけた時、想像を超えた出会いに辿りつけるのです。

苦しい時期を
乗り越える経験が糧になる。

学生のうちは、色々なことを見聞きすることが将来の選択肢を広げます。少しでも研究に興味があるなら、一度試してみてください。まずは、自分のやりたいテーマを自分のペースで追求するところから始めて、そこで自分なりに研究の楽しさや好きな部分を見つけてくれたらもっと良いですね。研究には困難や失敗がつきもの。だからこそ、最初の段階で集中して取り組んでもらって、苦しい時期を乗り越える経験をしてほしいと思います。数年やった後に臨床に戻るか、研究を続けるかを決めたら良いのです。研究での経験は今後必ず活きてくるので、一つのステップだと思って来てもらえたら良いと思います。